民衆史研究会2009年度大会シンポジウム

下記のように2009年度大会シンポジウムが開催されます。会員だけではなく、非会員の方の参加も歓迎いたします。ふるってご参加ください。

  ※13:30以降に入構される方は、お手数ですが門衛所にお声をおかけ下さい。

    • 当日資料代を頂きます(300円程度)。また、終了後、懇親会を設けます。
  • 報告
    • 勝又 基氏(明星大学准教授)
      • 「近世前期における仮名教訓書の執筆・出版と女性(仮)」
    • 小泉 吉永氏(法政大学講師)
      • 「女筆の時代と女性たち」
    • コメント:中野 節子氏(金沢大学教授)
  • 開催趣旨

今回の大会シンポジウムは、近世民衆が獲得していた「知」(ここでは文字や知識、またその背景にある思想)の問題について、特に近年研究が進んでいる女訓書や女子用往来物を素材として、検討しようとするものである。特に、それらの書物の作者、書かれた背景や内容について、文学、歴史学、日本語学などの様々な角度から分析することで、近世女性の「知」が作り上げられる過程やその特質について議論を深めたいと考えている。
女訓書や女子用往来物についての研究は、これまで主に教育史の分野で蓄積されてきた。これに対し近年は、精力的な資料集の刊行や、書物研究などの研究動向を受けて、新たな成果が重ねられてきている。


女訓書については、「封建的な」儒教思想を植えつけるものとして従来は評価されてきたが、近年『江戸時代女性文庫』全100巻(大空社、1994〜1998年)や『女大学資料集成』全20巻・別巻1(大空社、2003〜2006年)などの資料集が刊行され、中野節子氏が、仮名草子や女訓書などにおける筆法や思想内容の変遷から、女性をめぐる思想状況の変化について近世初期から近世後期までを見通す成果を出した(『考える女たち―仮名草子から「女大学」』大空社、1997年)。また、日本文学の分野からは、女訓文芸の作者や出版の社会的背景などについて検討した勝又基氏の研究(「『比売鑑』の写本と刊本」『近世文藝』70、1999年など)などが出ている。
一方女子用往来物についても、これまでに岡村金太郎氏、石川謙氏、石川松太郎氏、梅村佳代氏、八鍬友広氏らの厚い研究蓄積があるが、それに加え近年では、往来物は単なる「教材」ではなく、近世の出版文化の興隆を背景として、各時代の出版戦略の中で多くの人々に読まれるようにと書かれ、また読まれた「書物」であるという認識にたち、往来物を詳細に分析することで当時の一般的な教養、生活規範や言語生活の内実を明らかにしようとする研究が近年盛んにおこなわれている。女子消息型往来については天野晴子『女子消息型往来に関する研究 : 江戸時代における女子教育史の一環として』(風間書房、1998年)、女筆手本については小泉吉永『近世の女筆手本─女文をめぐる諸問題─』(博士論文、1998年3月)が出て、女子用往来物の体系的な把握、研究が可能になったといえる。
しかし、これら多分野にわたる成果を連関させて議論し、近世期の女性をめぐる「知」の体系について考察を深める機会はこれまでほとんどなかったといえる。


そこで、本大会では、文学、歴史学、日本語学などの分野で蓄積された成果を持ち寄り、近世の出版文化のなかで女訓書や女子用往来物がいかに生み出され、そこにはどのような思想的な背景があったのか、また女性たちはどのような教養と文字文化を身につけていたのかを考えたい。
近世の文字文化、出版文化の中で作者・読者として存在した女性たちを問題とすることで、近世で醸成された「知」の特質をよりきめ細やかに議論していければと考えている。今回のシンポジウムが、往来物研究や書物研究をさらに進展させ、分野を越えた研究交流の場となれば大変幸いである。