民衆史研究会2008年度大会シンポジウム

下記のように2008年度大会シンポジウムが開催されます。会員だけではなく、非会員の方の参加も歓迎いたします。ぜひご参加ください。

  • 報告
    • 太田 直之(國學院大學研究開発推進機構)
      • 「中世後期の勧進聖と地域社会−高野山寂静院増進上人の活動を事例として−」(仮)
    • 近藤 祐介(学習院大学院)
      • 「中世後期の東国社会における山伏の位置」(仮)
  • 開催趣旨

 中世寺院を対象とした研究は、黒田俊雄氏の「顕密体制論」に重要な画期を求めることができる。これにより80年代以降、その経済基盤や寺院組織、国家における寺院の役割など、様々な視点から論じられるようになった。また、その後地域史研究が注目されるようになると、地域社会の形成において、地域寺院が果たしてきた役割が明確に示されるようになった。しかしながら「中世寺院の果たした機能を民衆の視点からトータルにとらえて、その社会的機能や時代的特質をあきらかにしようとする研究は手つかずであった」という井原今朝男氏の指摘(井原今朝男氏『中世寺院と民衆』)があるように、民衆の生活における宗教の意味や、より民衆の生活に密接した在地の寺院の実態については、研究史上なお大きな課題として残されていた。このような課題を受けて、民衆史研究会では2004年に「中世社会における寺社と地域秩序」と題した特集を組み、集落の寺堂・社祠、在地領主の氏神・氏寺、惣荘レベルの鎮守など多様な在地レベルの寺社の実態についての検討を試みた。こうした状況の中で、「地域における寺社」「民衆にとっての寺社」としての側面がさらに注目されるようになったと言える。
 近年の日本中世史研究では、権門寺院をはじめとして、地方都市の寺社、さらには在地寺社にまで検討が進められ、中世民衆を取り巻く宗教環境の様相は豊かなものになってきている。そしてこれらの点を結ぶ線が、本大会シンポジウムで注目する、諸宗教者の宗教活動である。たとえば、榎原雅治氏は、百姓らの信仰に基盤を持った寺社が、修験者らに先導されて自律的な地域ネットワークを形成したことを指摘した(榎原雅治氏『日本中世地域社会の構造』)。また苅米一志氏は、新たな宗教的紐帯として勧進・結縁に注目し、「運動としての宗教」という側面を指摘している。勧進・結縁が地域における主要な寺社を媒介とており、新たな宗教的紐帯を志向するものであったことを明らかにしている(苅米一志氏「中世前期における地域社会と宗教秩序」)。

 本大会では、様々な中世の宗教活動の中でも、このような修験者や勧進聖等の地域の紐帯としての役割に注目し、その存在のあり方について検討していきたい。また彼らの活動は一つの地域内で完結するものではない。地域と地域、地域と中央、さらには諸階層を繋ぐ媒介者としてクローズアップしていきたいと考えている。このような視点により、中世の民衆を取り巻く地域社会を、さらに立体的にとらえることができるのではないだろうか。