民衆史研究会2011年度大会シンポジウム

下記の通り、民衆史研究会2011年度大会シンポジウムを開催いたします。会員、非会員の方にかかわらず、広く皆さまのご参加を歓迎いたします。ふるってご参加ください。

「近世琉球における民衆と社会」


報告

      「近世琉球の民衆史論
         −生業・年貢・民間信仰の視点から−」

  • 得能 壽美氏(法政大学沖縄文化研究所)

      「近世琉球の村・耕地・生業」


開催趣旨

1970年代の近世琉球研究に大きな影響を与えたのは、安良城盛昭氏の存在であった。近世琉球社会を捉える枠組みなど、安良城氏による幅広い問題提起を受けて飛躍的に研究が進展し、80年代末には「新琉球史」シリーズとして結実した。さらに、自治体史の編纂が進み、近世史料が収集・提供されると多角的な研究が行われるようになり、実証的研究が積み上げられていった。90年代には、幕藩制国家による琉球支配の展開、及び東アジア世界の動向を視野に入れながら近世琉球を捉える研究が進展し、近世琉球研究はさらに高い水準に達することとなった。2000年代に入ると、広大な海域アジア世界を射程に入れた「海域アジア史」が提起され、近世琉球研究においてもそうした動向が取り入れられるようになった。
東アジアから海域アジアへと、近世琉球をとらえるための枠組みと視野は、近年大きく広がっている。琉球王国の一国史にとどまらない、広範な視野を有する研究は近世琉球研究に厚みをもたらすものであり、大きな可能性を秘めている。琉球は交易国家であるため、外交・交易関係から国の特質や実態を分析する手法は、極めて有効である。さらに、海域アジア史は国家という枠組みにとらわれずに歴史を理解しようとするもので、海域に生きる人々の生活やネットワークなど、人の営みに注目しているとも言える。
その一方で、仲地哲夫氏が「近世琉球の歴史の研究にはいろいろと制約があって「民衆不在の歴史」になりがち」であると指摘する(仲地哲夫「琉球史における民衆の役割(四)」)ように、近世琉球国内史研究においては、民衆とそれを取り巻く社会に焦点をあてるという意識は、徹底されてこなかった。日本近世史において、民衆史・社会史の膨大な研究成果が蓄積されてきていることを考えれば、対照的な研究状況にあると言えよう。
近世琉球における民衆や社会の分析は、広範な視角を持った海域アジア史として琉球史を展開してゆくための、基礎とも位置づけられるべき研究である。民衆を中心とした近世琉球社会の実相を探る研究が、今まで以上に必要とされていると言えるだろう。
本大会では、「民衆」を切り口として、近世琉球社会の特質を探ることを試みたい。従来、近世琉球は外交・貿易史の観点から論じられることが多かったが、内的な側面からのアプローチを行うことにより、近世琉球をより立体的に理解することが可能になるのではないだろうか。