民衆史研究会2012年度大会シンポジウム

下記の通り、民衆史研究会2012年度大会シンポジウムを開催いたします。会員、非会員の方にかかわらず、広く皆さまのご参加を歓迎いたします。ふるってご参加ください。

「「荘園調査」の現在地」


報告

      「荘園絵図調査の実践から」

      「下総国下河辺庄の現状と課題」

      「丹波国山国荘地域の現地調査・その成果と課題」


開催趣旨

荘園研究、ことに在地住民の生活の具体相を明らかにすることを課題とする者にとって、荘園故地を実際に訪れて調査を行うことは極めて重要な方法論の一つであり、文献史料との相互補完によってすでに多くの成果が生みだされてきた。なかんずく公的な費用による組織的な調査が盛んに行われるようになったのは1980年代からであるが、そのような調査の必要性が広く認識されるに至ったのは、高度経済成長期における圃場整備事業や大規模インフラ開発、都市化・宅地化による歴史的景観の消滅という、現実的な危機感を契機としてのことであった。
その当時からおよそ30年が経過し、社会状況も大きく変化した現在にあっても、荘園調査の実施者は地方が抱える過疎化・高齢化といった現代的な問題に直面せざるをえないだろう。これは地元住民の間で共有されてきた記憶や伝承が、次世代に継承されないまま失われてゆく危機的状況を意味しており、荘園調査が時間との戦いであるという側面は高度経済成長期と何ら変わりない。
その一方で、近年では調査ツールの技術的な進化にともない、調査のあり方にも変化がもたらされている。例えば携帯情報端末デジタルカメラGPS機能による画像資料等への位置情報の付与などであるが、それらの情報をGISソフトに入力することで調査成果を地図上で視覚的に把握することができ、ひいては復元研究の発展への寄与も期待される。さらには報告書の形態も紙媒体よりもWeb上での公表の方が適切な場合も考えられ、情報発信の一つの手段ともなりうる。これらのツールをいかに活用するかも荘園調査の新たな課題といえよう。
そして調査手法という視点からすれば、考古学・地理学・民俗学など隣接諸分野からの学際的アプローチの必要性はいわずもがなであるが、近年では人間と自然環境の関わりを歴史的にとらえようとする「環境史」が提唱されるなど視野の広がりをみせていることを前提とすれば、荘園の住環境を多面的に明らかにするためには、これまで決して積極的であったとはいえない理科系との連携も今後は模索されるべきであろう。
以上のように荘園調査は、多面的な方法論の活用・導入を視界に入れた新たな可能性について検討すべき時期に来ているといえる。
そこで本大会では、近年の荘園調査の具体的な現状、それによって描き出され復元される荘園の姿について各報告によって理解を深めた上で、今後の調査はどうあるべきかについて、荘園遺跡の保存、行政との連携、地元住民との関係構築といった側面も含めて討論を試みたい。そもそも荘園のあり方は日本列島の東西によって地域差が大きいことがよくいわれるが、異なるフィールドの間で調査の実情について情報を共有する機会は多くはなく、本大会がそのような場として生かされ、荘園調査の今後の方向性について有益な議論が交わされれば幸いである。